亡くなった親に借金がある、相続する実家が遠方で管理できない、買い手のつかない土地がある——こうした理由で相続放棄を検討する方は少なくありません。相続放棄をすると、最初から相続人でなかったことになり、預貯金も不動産も借金も引き継ぎません。ただし、期限が短いこと、放棄の前後の行動に注意が必要なこと、放棄しても不動産との関係がすぐには切れない場合があることを、先に知っておく必要があります。
期限は「知った時から3か月」
- 相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述します(熟慮期間)。
- 申述先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
- 財産の調査が3か月で終わらない場合は、期間内に家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てることができます。
- 費用は申述人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手です。戸籍謄本など、被相続人との関係に応じた書類を添付します。
先順位の相続人(子など)が全員放棄すると、次の順位(親、兄弟姉妹など)が相続人になります。次の順位の人の3か月は、自分が相続人になったことを知った時から始まります。家族の中で放棄する人がいるときは、次の順位の親族にも早めに知らせておくのが望ましい対応です。
放棄の前にしてはいけないこと
相続財産を処分すると、相続を承認したとみなされ、放棄できなくなるおそれがあります。
- 実家や土地を売る・貸す・取り壊す
- 被相続人の預金を引き出して自分のために使う
- 価値のある家財を形見分けの範囲を超えて持ち出す
一方、雨漏りの応急処置など、財産の価値を保つための行為は「保存行為」として扱われるのが一般的です。迷う行為は、実行する前に司法書士・弁護士に確認してください。
放棄した後の「保存義務」(2023年4月施行)
2023年4月1日施行の民法改正で、相続放棄をした人の義務が整理されました。
- 相続放棄をした時に、その財産を現に占有している人は、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで、その財産を保存する義務を負う
- 注意の程度は「自己の財産におけるのと同一の注意」
- 放棄の時に占有していなかった人は、この保存義務を負わない
国土交通省の情報提供では、相続放棄の時に空き家を現に占有している人は、空家法上の「管理者」に当たると考えられるとしています。占有しているかどうかは個別に判断されますが、自分の家財や荷物を保管している、鍵を持っているといった場合は、占有者に当たる可能性があるとされています。
つまり、親と同居していた子や、実家の鍵を預かって管理していた子が放棄した場合、放棄したからといってすぐに空き家と無関係になるわけではないことがあります。倒壊や草木の繁茂で近隣に被害が出ないよう、引き渡すまでの管理を考えておく必要があります。空き家の管理責任については「空き家を放置すると何が起きるか——改正空家法の「管理不全空家」と固定資産税」も参考にしてください。
全員が放棄したら——相続財産清算人
相続人全員が放棄し、相続する人がいなくなった場合、家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、財産の清算を進めます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立てができる人 | 利害関係人(被相続人の債権者、特定遺贈を受けた人、特別縁故者など)、検察官 |
| 申立先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 主な費用 | 収入印紙800円、郵便切手、官報公告料。財産で管理費用をまかなえないおそれがあるときは、予納金の納付を求められることがある |
| 清算の流れ | 清算人が財産を管理・換価し、債権者への支払いなどを行い、特別縁故者への分与を経て、残った財産は国庫に帰属 |
予納金は事案により異なり、申立人の負担が大きくなることもあります。占有していて保存義務を負う人が、管理を終わらせるために清算人の選任を申し立てることも考えられますが、費用と期間の見通しを立ててから判断します。
放棄以外の選択肢も比べる
「不動産を手放したい」ことが主な理由なら、相続放棄が最善とは限りません。
- 相続して売却する:売れる見込みがあれば、手元にお金が残る可能性がある
- 相続して国庫帰属制度を使う:他の財産は相続し、特定の土地だけを国に引き渡す(相続土地国庫帰属制度)
- 限定承認:相続した財産の範囲内でのみ債務を負担する方法(相続人全員で申述する必要がある)
放棄は、プラスの財産もすべて手放す、原則として撤回できない手続きです。不動産の売却可能性や価値が分からないまま3か月が過ぎてしまわないよう、早めに確認することが重要です。
当社では、相続放棄を検討されている方から、相続財産に含まれる不動産の売却の見込みや概算の価値についてご相談をいただいた際、司法書士・弁護士と連携して判断材料を整理しています。
相続放棄の可否や手続き、保存義務の範囲は、家庭裁判所、司法書士・弁護士にご確認ください。

