一棟のアパートやマンションを持つと、外壁、屋上防水、鉄部塗装、給排水管、エレベーターなど、建物全体にかかわる工事をオーナーが自分で決めて、自分で負担することになります。区分所有のマンションであれば管理組合が長期修繕計画を立てて修繕積立金を積み立てますが、一棟物件にはその仕組みがありません。周期の考え方と、工事費の税務上の扱いを整理します。
一棟物件の修繕は「オーナーが管理組合」
分譲マンションでは、区分所有者全員で構成する管理組合が、修繕の計画・資金・工事の発注を担います。一棟物件では、これらをすべてオーナーが一人で判断します。
- 修繕の時期と内容を決める
- 工事費を、手元資金・借入れ・毎年の収支のどこから出すか決める
- 工事中の入居者への説明、足場設置期間の騒音や日照の配慮
- 工事後の賃料・入居付けへの効果を見込む
自由に決められる反面、計画がないと「必要な時期にお金がない」「先送りして劣化が進む」ということが起きやすくなります。
公的なガイドラインでの計画の考え方
国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」(2024年6月改定)は、主として区分所有者が居住する分譲マンションを想定したものですが、一棟物件の修繕計画を考えるうえでも参考になります。主なポイントは次のとおりです。
- 計画期間:30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とする
- 見直し:5年程度ごとに調査・診断を行い、その結果に基づいて見直す
- 周期:屋根防水、外壁塗装等、鉄部塗装、給水管・排水管、給水ポンプ、昇降機など、部位ごとに修繕の周期の目安が示されている。ただし、周期はおおよその目安であり、立地条件等により異なることがあるとされている
具体的な周期の年数は、建物の仕様や劣化の状態によって変わります。購入時や保有中に、建物調査(劣化診断)を行い、自分の物件の計画を作ることが基本です。
計画を作るときの確認点
- 過去の修繕履歴:いつ、どの部位を、どの仕様で工事したか。売主から工事の契約書・報告書を引き継ぐ
- 部位ごとの現況:外壁のひび割れやタイルの浮き、屋上の防水層の劣化、鉄部の錆、配管の材質と漏水の履歴
- 費用の見積り:複数の施工会社から見積りを取り、足場が必要な工事(外壁・屋上・鉄部など)はまとめて行えるか検討する
- 資金計画:毎年の収支から修繕のための資金を別に積み立てておくか、工事時に借入れで対応するか
足場を組む工事は、足場代そのものが大きな費用です。外壁と屋上防水、鉄部塗装などを同じ時期にまとめると、総額を抑えられることがあります。
修繕費と資本的支出の税務区分
工事費は、税務上、その年の必要経費になる修繕費と、減価償却を通じて経費にする資本的支出に分かれます。国税庁の案内では、次のように整理されています。
| 区分 | 内容 | 経費化 |
|---|---|---|
| 修繕費 | 通常の維持管理や修理のための支出 | 支出した年の必要経費 |
| 資本的支出 | 物理的に付け加えた部分、用途変更のための改造・改装、性能を高める取替えで通常の取替えを超える部分など | 減価償却を通じて各年の必要経費 |
修繕費か資本的支出かの判定には、次のような形式基準があります。いずれかに当てはまれば修繕費として扱えます。
- おおむね3年以内の周期で行われる修理・改良などである
- 一つの修理・改良などの金額が20万円未満である
- 資本的支出か修繕費か明らかでない金額が60万円未満である
- 明らかでない金額が、その資産の前年末取得価額のおおむね10%以下である
これらに当たらず、区分が明らかでない場合は、所得税基本通達37-14の区分の特例によることが認められています。
大規模修繕で迷いやすい例
- 外壁塗装の塗替え:もとの状態に戻す工事であれば修繕費になりやすい一方、断熱塗料や外壁材の変更など性能を高める内容が含まれると、その部分は資本的支出と判断される余地がある
- 屋上防水の更新:同等の仕様での更新か、仕様を大きく変えるかで判断が分かれる
- 設備の新設:オートロックや防犯カメラ、宅配ボックスの新設は、物理的に付け加えるものとして資本的支出になりやすい
金額が大きい工事ほど、見積書・請求書の内訳を「原状回復部分」と「改良部分」に分けてもらうと、税理士との判断がしやすくなります。
修繕と売却のタイミング
築年数が進み、大規模修繕の時期が近づいた物件は、「修繕してから持ち続けるか」「修繕前に売るか」の判断が必要になります。修繕後は入居付けや賃料の維持に効果がある一方、多額の支出を回収できるだけの保有期間があるかが論点です。判断の材料は「老朽アパートの出口」や「収益物件を売る「時期」の考え方」でも整理しています。
当社では、一棟物件のオーナー様からのご相談に対し、修繕の見込みと保有を続けた場合・売却した場合の収支を並べて比較し、判断の材料を整理しています。
修繕費と資本的支出の区分など個別の税務判断は、税理士または所轄の税務署にご確認ください。

