収益物件の売却では、「売るか持つか」と同じくらい「いつ売るか」が結果を左右します。市況だけでなく、税と建物の事情で、同じ物件でも年によって手取りが数百万円単位で変わることがあります。判断の軸を順に見ます。
軸1:所有5年の壁(個人)
個人が不動産を売ったときの譲渡所得の税率は、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで変わります。
| 区分 | 所有期間 | 税率(所得税・住民税。復興特別所得税を除く) |
|---|---|---|
| 短期譲渡 | 5年以下 | 39% |
| 長期譲渡 | 5年超 | 20% |
「購入から5年経った」と「売った年の1月1日で5年超」はずれます。たとえば2021年6月に買った物件は、2026年中に売っても1月1日時点では5年以下。2027年1月1日以降の売却で長期になります。数か月待つだけで税率が半分になるケースがあるため、必ず確認します。
法人には短期・長期の区別はありません。
軸2:減価償却が終わる年
建物の減価償却費は、毎年の不動産所得を圧縮する大きな経費です。築古の木造や、中古で取得した物件は償却期間が短く、償却が終わると、ほかの収支条件が同じなら課税所得が増えます。家賃収入は変わらないのに所得税・住民税が増え、税引後の手残りが減ることがあります。
- 借入れがある場合、「ローン返済の元金部分が減価償却費を上回る」状態(いわゆるデッドクロス)になると、手残りの減り方が大きくなります。償却終了はその典型的なきっかけです。借入れがなければ、税負担の増加だけを見ます
- 償却終了の数年前から、売却か、買い替えか、追加投資かを検討する
- 売却時は、償却した分だけ取得費が小さくなるため、譲渡益は大きくなる。「持ち続けて所得税を払う」と「売って譲渡税を払う」の比較になる
軸3:大規模修繕の前か後か
外壁・屋上防水・給排水管・エレベーターの更新時期が近い物件は、買主がその費用を値引きとして要求します。
- 修繕前に売る:費用負担はないが、買主の指値(値引き)が入る。修繕費を見込んだ価格になる
- 修繕後に売る:出費は先行するが、「修繕済み」で買主の層が広がり、融資も付きやすい。かけた費用がそのまま価格に乗るとは限らない
目安は、「修繕費に対して、売却価格がどれだけ上がるか」。見積りと査定を両方取って比べます。
軸4:金利と買主の動き
収益物件の価格は、買主の借入条件に強く影響されます。金利が上がれば買主の返済負担が増え、同じ家賃収入でも出せる価格は下がります。逆に、金利上昇の前は買主が急ぐため、売り手に有利な場面があります。
- 金融機関の融資姿勢(物件種別・築年・エリアごとの融資可否)は年単位で変わる
- 「今は売り手市場か」は、周辺の売出し在庫の量と成約までの期間でおおよそ分かる
市況を完全に読むことはできないため、「税と建物の事情で決めた売却時期の候補」の中で、市況を見て絞り込むのが現実的です。
軸5:相続の前か後か
- 相続前に売る:売却益への譲渡税がかかるが、現金化して分けやすくなる。納税資金の準備にもなる
- 相続後に売る:不動産として相続すれば評価額は時価より低くなることが多く、相続税は抑えられる。相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始からおおむね3年10か月以内)に売れば、払った相続税の一部を取得費に加算できる特例がある
- 相続人が複数いる収益物件は、共有のまま持ち続けると意思決定が難しくなる。相続後早期に「誰が持つか・売るか」を決める
収益物件の売却時期は、「市況が良いから」だけで決めるものではありません。当社では、所有期間・償却状況・修繕計画・借入条件・相続の見通しを一覧にして、売却時期の候補とそれぞれの手取りの試算を並べてお示ししています。
税務の個別判断は、税理士または税務署にご確認ください。

