一棟マンション・アパートの売却は、住まいの売却と違い、「収益を生む事業」を引き継ぐ取引です。買主は賃料と支出の数字で判断するため、売却前に整えておくべき情報がはっきりしています。
1. レントロール(賃貸借の一覧)
戸別の賃料・共益費・契約日・更新日・敷金・入居者属性をまとめた表です。買主が最初に見る資料で、ここに抜けや矛盾があると価格交渉の材料になります。
- 空室の賃料は「想定」と明記し、直近の成約賃料と差がないか確認する
- 滞納・訴訟・特約(ペット可、フリーレント、定期借家など)は隠さず記載する
- 敷金・保証金は売買時に買主へ引き継ぐため、残高を確定しておく
2. 修繕履歴と大規模修繕の見通し
屋上防水、外壁、給排水管、受水槽、エレベーター、消防設備の点検・修繕記録です。履歴がない建物は、買主が「近いうちに大きな費用が出る」と見込んで価格を下げます。
- 直近10年の修繕内容と費用を一覧にする
- 未実施の法定点検(消防設備、簡易専用水道、昇降機など)があれば、売却前に済ませるか、買主に正直に伝える
- 検査済証・竣工図・設備図面の有無を確認する(ない場合も売れますが、融資審査に影響することがあります)
3. 借入と抵当権
売却代金で既存ローンを完済し、抵当権を抹消してから引き渡すのが原則です。
- 残債と、繰上返済時の手数料・違約金を金融機関に確認する
- 残債が売却価格を上回る場合は、差額を自己資金で埋めるか、金融機関と相談する
- 法人所有の場合は、代表者の連帯保証や他の物件との共同担保を確認する
4. 税金と費用
個人が売却する場合、売却益(譲渡所得)には、売却した年の1月1日時点の所有期間で税率が変わります。
| 所有期間 | 税率(所得税・住民税・復興特別所得税の合計) |
|---|---|
| 5年超(長期譲渡所得) | 20.315% |
| 5年以下(短期譲渡所得) | 39.63% |
所有期間が5年の境目にある場合、売却時期を少しずらすだけで手取りが大きく変わります。建物部分の売却には消費税がかかる場合があり(課税事業者の場合)、売買契約書の印紙税、抵当権抹消の登記費用、仲介手数料も見込んでおきます。
仲介手数料の上限は、売買価格400万円超の部分で「価格の3%+6万円(税別)」が目安です。なお、2024年7月からは800万円以下の物件について、売主・買主それぞれから最大33万円(税込)まで受け取れる特例が設けられています。
5. 時期と進め方
- 入居率:満室に近い状態のほうが評価は上がります。空室がある場合は、募集条件を見直してから売るか、空室を前提に価格に織り込むかを決めます
- 決算期:法人が売主の場合、売却益の計上時期が決算に影響します
- 仲介か買取か:市場で買主を探す仲介は価格を追求できる一方、売却まで数か月かかります。当社が直接買い取る場合は、期間と確実性を優先できます。両方の目安を並べて選ぶのが確実です
まとめ
一棟物件の売却は、情報が整っているほど価格と期間が安定します。レントロール・修繕履歴・借入の3点が揃っていれば、机上査定の精度が上がり、買主の融資もスムーズです。整っていない状態でも、整理からお手伝いできます。
税の計算は個別の事情で変わります。最終的な判断は税務署または税理士にご確認ください。

