店舗ビルや区分店舗など、店舗として貸している物件の売却では、住宅とは見られる点が大きく異なります。買主が知りたいのは、いまのテナントがどれだけ安定して賃料を払い続けるかと、退去した後に次の借り手がつくかです。判断材料は、賃貸借契約書とテナントの業種にほぼ集約されます。
テナントの業種で変わる評価
| 業種の例 | 買主が気にする点 |
|---|---|
| 飲食(重飲食・軽飲食) | 給排水・排気・グリーストラップなどの設備、臭気・騒音、火気使用。退去時の工事が大きくなりやすい |
| 物販・サービス | 設備負担は比較的軽いが、立地と通行量への依存が大きい |
| クリニック・事務所系 | 長期入居が見込める一方、内装の造り込みや法令対応の確認が必要 |
区分店舗では、管理規約の業種制限(飲食不可など)も次のテナント募集の幅に直結します。
賃貸借契約の種類と条件
まず確認するのは、普通借家契約か、定期借家契約かです。
- 普通借家:正当事由がない限り更新され、貸主から退去を求めるのは容易ではありません
- 定期借家:書面で契約し、別の書面で「更新がなく期間満了で終了する」ことを事前に説明します。期間1年以上なら、満了の1年前から6か月前までに終了の通知が必要です。事業用建物でも使えます
建替えを考える買主には満了時期が明確な定期借家が、安定収入を求める買主には優良テナントとの普通借家が評価されることもあります。このほか、次の条件を確認します。
- 賃料・共益費、改定の条項、直近の改定履歴
- 保証金・敷金の額と償却の有無(売却時に買主へ承継する金額に関わります)
- 中途解約の予告期間、違約金
- 原状回復の範囲、造作の取扱い(造作買取請求権を排除する特約の有無など)
原状回復は「契約書の特約」で決まる
国土交通省の原状回復ガイドラインは、通常の使用による損耗や経年変化は貸主負担、という考え方を示していますが、対象は民間賃貸住宅です。店舗などの事業用賃貸借では、契約で「スケルトン(内装・設備を撤去した状態)で返還」「借主の費用で入居時の状態に戻す」といった特約を置くのが一般的な考え方です。
入居時の引渡し状態(スケルトンか、前テナントの内装が残っていたか)、原状回復の範囲、保証金との精算方法が書面で分からない契約は、退去時の紛争リスクとして買主に見られます。
居抜きでの退去・入替え
飲食店などでは、内装や設備を残したまま次のテナントに引き継ぐ居抜きが行われることがあります。工事の費用と期間を省ける一方、次の点が整理されていないと売却時に問題になります。
- 残された造作・設備の所有者は誰か(テナント所有か、貸主に帰属したか。リース物件ではないか)
- 次のテナントが、前テナントの造作分まで原状回復義務を負うのか
- 設備の故障・更新の負担区分
当時の合意書や造作譲渡の書類をそろえておくと、買主の確認が早く進みます。
買主が確認すること
買主は主に次の資料を求めます。
- レントロール(区画ごとの賃料・契約期間・保証金の一覧)と、賃貸借契約書・覚書
- 滞納の有無と履歴
- 検査済証と用途変更の履歴(一定規模を超える用途変更では手続きが必要になる場合があります)
- 消防設備点検、保健所・消防への届出の状況(飲食の場合)、修繕履歴
売り出し前には、口頭の合意(賃料減額、フリーレントなど)を書面に起こし、保証金の返還額を区画ごとに確定させ、協議中の事項(退去予告、賃料交渉)を買主に正確に伝えられるようにしておきます。テナントが入ったまま売る流れは「入居者がいるまま売る——オーナーチェンジ物件の売却で押さえる手順」、ビル全体の売却は「名古屋の中小ビルを売るとき」も参考にしてください。
当社では、店舗物件の売却にあたり、賃貸借契約やテナントの状況を一緒に整理し、買主に伝える資料づくりから進めています。
契約条項の解釈や紛争の可能性がある場合の個別判断は、弁護士にご確認ください。

