長く住んだ自宅を売って新しい住まいに買い換えるとき、売却益に対する課税を次に売るときまで繰り延べる特例があります。「特定の居住用財産の買換え特例」です。税金がなくなるわけではないため、3,000万円の特別控除とどちらを使うかは、売却益の大きさと将来の計画を並べて判断します。要件は2026年10月時点の国税庁の情報に基づきます。
特例の仕組み——「非課税」ではなく「先送り」
通常、自宅を売って利益(譲渡所得)が出れば、売った年の所得として課税されます。買換え特例を使うと、その利益は売った年には課税されず、買い換えた家を将来売るときに、その時点の利益と合わせて課税されます。
国税庁の例では、1,000万円で買った家を5,000万円で売り、7,000万円の家に買い換えています。通常は4,000万円の譲渡益に課税されますが、特例を使うと売った年の課税はありません。その後、買い換えた家を8,000万円で売ると、実際の値上がり益1,000万円に、繰り延べた4,000万円を加えた5,000万円が課税対象になります。
繰延べの仕組みは、買い換えた家の取得価額を「実際に払った額」ではなく、売った家の取得費を引き継いだ額として扱うことで実現されます。
主な要件
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 売却の期限 | 2027年(令和9年)12月31日までの売却 |
| 居住期間 | 売った人の居住期間が10年以上 |
| 所有期間 | 売った年の1月1日時点で、家屋・敷地とも10年超 |
| 売却代金 | 1億円以下 |
| 買換えの時期 | 売った年の前年から翌年までの3年間に取得 |
| 入居の期限 | 売った年かその前年に取得した場合は売った年の翌年末まで、翌年に取得した場合は取得した年の翌年末まで |
| 買い換える家 | 居住部分の床面積50㎡以上、敷地面積500㎡以下 |
| 中古の場合 | 取得日以前25年以内の建築、または一定の耐震基準を満たすこと |
このほか、次の点にも注意します。
- すでに住んでいない家は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があります
- 親子・夫婦・生計を一にする親族など「特別の関係がある人」への売却は対象外です
- 2024年1月1日以後に入居する新築住宅は、一定の省エネ基準を満たすことが必要です。また、2028年1月1日以後に入居する新築住宅は、災害危険区域等に建てられたものでないことが求められます
3,000万円控除とは「選択」
買換え特例は、次の特例と同時には使えません。
- マイホームを売ったときの3,000万円特別控除
- 10年超所有の軽減税率の特例
- マイホームの譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例
さらに、売った年・その前年・前々年に3,000万円控除などを受けていると、買換え特例は使えません。逆に、3,000万円控除と軽減税率は重ねて使えます。そのため、比較は次の2つになります。
| 選択肢 | 売った年の税 | 将来売るとき |
|---|---|---|
| 3,000万円控除+軽減税率 | 控除後の利益に課税(利益が3,000万円以下なら税額なし) | 新居は実際の購入額が取得費になる |
| 買換え特例 | 課税なし(買換え額が売却額以上の場合) | 繰り延べた利益も合わせて課税 |
売却益が3,000万円以内に収まるなら、多くの場合は3,000万円控除のほうが単純で有利です。買換え特例が検討に値するのは、売却益が3,000万円を大きく超え、かつ新居を長く持ち続けるつもりのときです。比較の考え方は「自宅を売ったときの税金」でも整理しています。
売却額より安い家に買い換えた場合
買い換えた家の購入額が売却額より少ない場合は、差額の部分だけが売った年に課税されます。国税庁の例では、1億円で売って7,000万円の家に買い換えた場合、差額3,000万円を収入金額とし、取得費・譲渡費用のうちその割合に応じた部分を差し引いて譲渡所得を計算します。
なお、この差額部分の課税について、3,000万円控除や軽減税率を重ねて使うことはできません。
住宅ローン控除との関係
新居に入居した年・その前年・前々年に買換え特例を受けていると、新居で住宅ローン控除が使えません。入居の翌年から3年目までに旧居を売って特例を受けた場合も同様です。新居で大きな住宅ローンを組む予定なら、ローン控除を取るか、買換え特例を取るかの比較が欠かせません。
手続きの注意
- 特例は確定申告をして初めて適用されます。税額がゼロでも申告が必要です
- 売った年の翌年に買い換える場合、一部の書類は買い換えた家を取得してから4か月を経過する日までに提出します
- 将来の売却時に備え、旧居・新居の売買契約書や諸費用の領収書は長期間保管しておきます
買換え特例は「今の税を減らす」制度ではなく「いつ課税されるか」を選ぶ制度です。当社では、住み替えのご相談の際に、売却益の概算と各特例を使った場合の違いを整理し、具体的な判断は税理士と連携して進めています。
税務の個別判断は、税理士または所轄の税務署にご確認ください。
