収益物件の購入資金を借りるとき、金融機関は「この物件の収益で返済できるか」「物件の価値に比べて借入れが大きすぎないか」を確かめます。そのときに使われるのが、DSCR、LTV、返済比率といった指標です。基準値は金融機関や物件、借り手によって異なり、公表されているものでもありません。ここでは、それぞれの意味と計算方法、購入を検討する側として何を確認しておくとよいかを整理します。
DSCR——収益で返済をまかなえるか
DSCR(Debt Service Coverage Ratio:借入金償還余裕率)= 純収益 ÷ 年間の元利返済額
国土交通省の「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」では、借入金償還余裕率を「ある期間の純収益を同期間の借入金元利返済額で除した値」と説明し、還元利回りを求める方法の一つの中で、通常は1.0以上であることが必要としています。
- DSCRが1.0:純収益と返済額が同じ。少しでも空室や修繕が出ると、返済が手元資金の持ち出しになる
- DSCRが1.0を上回るほど:返済後に残る余裕が大きい
計算例(数値は説明のための仮定です):
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 純収益(NOI) | 年600万円 |
| 年間の元利返済額 | 年480万円 |
| DSCR | 600 ÷ 480 = 1.25 |
ここで使う純収益は、満室想定の賃料ではなく、空室や経費を差し引いた数字です。純収益の考え方は「NOIとキャップレート」で解説しています。
LTV——物件の価値に対する借入れの割合
LTV(Loan to Value)= 借入額 ÷ 物件の評価額
LTVが高いほど、自己資金が少なく借入れの比重が大きい状態です。物件の価値が下がったときに、売却しても借入れが残るリスクが高まります。
- 分母の「評価額」は、購入価格ではなく、金融機関が独自に評価した担保価値で考えることが多い
- 購入価格が評価額を上回る場合、その差は自己資金で埋めることになる
- 購入時の諸費用(仲介手数料、登記費用、不動産取得税など)は、別途の資金として見込んでおく
担保価値の評価には、土地と建物を積み上げる考え方と、収益から価格を求める考え方があり、どちらを重視するかは金融機関や物件によって異なります。
返済比率——賃料収入のうち返済に回る割合
返済比率 = 年間の元利返済額 ÷ 年間の賃料収入
賃料収入に対して返済がどれだけを占めるかを見る指標で、個人の投資家の間でもよく使われます。分母に満室想定の賃料を使うか、実際の賃料を使うかで数字が変わるため、比べるときは前提をそろえます。
返済比率は計算が簡単な一方、経費を差し引かないため、経費率の高い物件では実態より余裕があるように見えます。DSCRと併せて見るのが基本です。
金融機関が見ている「ストレス」
金融庁が2019年に公表した投資用不動産向け融資のアンケート調査結果では、ストレスも勘案した完済までの収支シミュレーションに基づいて返済可能性を見極めることが重要だとしています。購入を検討する側でも、次のような条件で収支を試しておくと、融資の相談が具体的になります。
- 空室率の上昇:現在の入居率から一定程度悪化した場合
- 賃料の下落:入れ替わりのたびに相場の賃料へ下がった場合
- 金利の上昇:変動金利で借りる場合、金利が上がったときの返済額
- 修繕費の発生:大規模修繕の時期と金額
これらを織り込んでもDSCRが1.0を下回らないか、下回る年があるなら手元資金で耐えられるかを確認します。
審査で求められる資料
指標の計算には、物件と借り手の資料が必要です。
- 物件:レントロール、賃貸借契約書、固定資産税の課税明細、修繕履歴、図面、検査済証など
- 借り手:源泉徴収票や確定申告書、資産の状況(預金・保有不動産)、既存の借入れ
- 法人で借りる場合:決算書、代表者の資産の状況
同アンケート結果では、預金通帳などの財産資料について原本確認を徹底していない金融機関も多いと指摘されており、資料の正確さがあらためて重視されています。
指標を自分で計算する意味
DSCR・LTV・返済比率は、金融機関のためだけの数字ではありません。購入しようとする物件が、借入れを含めて無理のない投資になっているかを、自分で確かめる道具です。融資期間や自己資金の考え方は「収益不動産の融資の基本」でも整理しています。
当社では、収益物件の購入のご相談の際に、レントロールと経費から純収益を組み直し、空室・賃料・金利の条件を変えた収支を一緒に確認しています。
融資の可否や条件は金融機関の審査によって決まります。資金計画の個別判断は、金融機関・税理士にご確認ください。

